坂口祐三郎の素顔 vol.1
輝く瞳
彼が生まれた1941年は、日本が戦争へ進み、国内が動乱の時代であった。実母と別れた4歳の年は終戦の年。
平和な現在ではおよそ見当のつかない生死をさまよう時代だったと思う。人々は貧困に苦しみ、栄養失調で溢れた町は瓦礫の山で覆われ、初めてチョコレートを食べた時の事を生涯、忘れないと言っていた。
ある日、目の輝きの話になった時、母の愛情に餓えてたからね…と笑
いながら話してくれた。
食うに食えず…家族の愛情にまで餓えていたが、男として弱みを見せるのは恥ずかしくて誰にも言えなかった彼の心情は、計り知れない苦悩の連続であったはず。だが、そんな彼でも、唯一隠せなかったのが、「瞳の輝き」ではないだろうか。一見美しく凛とした瞳だが、その裏に隠された深い悲しみや彼の想念が、一段と彼の瞳を輝かせ、人々の心を引きつけ、魅了したに違いない。
後年、東映の俳優になるまでも、なってからもたくさんの人の支持を集めた輝く瞳の正体は、儚い彼の人生を映す涙の結晶だったのだろう。生きて行く為に子供と別れなければならない母の気持ちも痛い程わかる。しかし残された子供の母への想い、そう言う当たり前の部分が不足し、それを取り戻す為に演技の世界に身を投じた彼の姿が見る人の心を魅了したのだと思う。
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